[まちの元気じるし]須弥山の湯一の宿 元:妙高高原町商工会(商工連ニュース15年9月号掲載)
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須弥山の湯 一の宿 元 中頚城郡妙高高原町池の平温泉 TEL:0255-86-3000 FAX:0255-86-2009 |
末っ子の三男坊だったからとりあえずどこかの大学にでも、と気楽に構えていた高校三年生のある日、ニュージーランドに出掛けていた父から電話があった。「こちらに良い温泉がある。いまなら格安で入手できるが、温泉場に仕立て上げるには誰かがこちらで2〜3年は真面目に取組まなければならない。やる気があるなら買って帰るが、どうするか返事をしろ。」そう言われて、普通に大学に行くよりは変った経験ができそうだと「やるよ。」と答えてしまった。それがきっかけで、いつの間にかホテルマンになっていた。
ニュージーランドに日本風温泉宿を作るのは大変だった。だれも日本の温泉施設など知らないので、いちいち全部を説明をして分ってもらう必要があった。手に入らない資材などは、作ってくれそうなところを探して直接交渉して作ってもらったり、自分で作るよりなかった。本場のラグビークラブにも参加して、たくさんの友達も出来た。なにしろ社会に出た初めての場所がニュージーランドだったので、そういう体験を通じて日本人とは違う発想の仕方や仕事のやり方を学んだことが、いまの仕事にはとても役立っている。
赤倉温泉ホテル秀山を核とする秀山グループ専務で「須弥山の湯 一の宿 元(しゅみせんのゆ いちのやど げん)」を切盛りされる荻野光貴さんはおっしゃいます。
「妙高池の平ホテル」として長い間親しまれてきた同ホテルは、この春のリニューアルを機に「須弥山の湯
一の宿 元」として生まれ変りました。営業・企画のほか、時には什器や備品も自製して営繕係の仕事もこなすという荻野さんですが「まず、シンプルな名前にしたかった。同じような名前のホテルが他所にもあったし、妙高というと、どうしても冬・スキーのイメージが強すぎるので、できるだけ手垢のついていない名前に変えたかった。」といいます。
いろいろと改装のテーマを考えあぐねているとき、偶然に知人の経営する蕎麦屋で相席したことをきっかけに画家の谷充央さんと親しくするようになり、その作品に特徴的な赤と黒のコントラストの妙に、強い感銘を受け、赤の活き活きとした様子や元気さ、黒の持つ気品や落着きを新しい宿のコンセプトにしたいと思い至ったそうです。
そこで感じた元気という言葉から発想し、両足を踏みしめて必死に頑張っているような字の形も好きだったので、自然に名称は「元」に落着きました。併せて"GEN"と表示することによって"Get
the Energy of Nature"を初めとする様々な意味、原風景や厳選、縁などの思いを込めることができる、という広がりも気に入った理由ということでした。須弥山は妙高山の異名でもあり神秘的な力を感じさせる名前であることから、またお客様にとってのオンリー1の宿でありたいという思いから「一の宿」としたそうです。もっとも「元だけだと居酒屋と間違われそうな気がしたので・・・。」ともおっしゃいます。
「従来目指してきた和風田舎づくりのコンセプトとあまりかけ離れず、イメージを大事に、崩さず、もう一歩先を目指す。」という荻野さんの思いを理解し形にしてくれたのは、それとは知らず以前から友達づきあいをしていた業界ではカリスマと謳われる設計士さんだったのだそうです。また、その方の紹介で旅館業で頑張る若手経営者たちと知合い、今では「一の宿倶楽部」として共同販促や宣伝活動、勉強会を実施する仲間でありライバルという得がたい存在となっているということで、ここでも縁という言葉を強く意識させられたとおっしゃいます。
「できるだけ他人任せにしたくなかった。」というだけに、館内は荻野さんのこだわりに溢れています。エントランスには目隠し効果でわくわく感を掻き立てる大きなのれん。床は柔かい感触の伝わる土間風の仕上げ。チェックインカウンターはゆったりと記入できるように椅子付、特別製ガラスペンを備えつけています。ロビー奥には宿のコンセプトの基となった谷さんの作品。また左右の明り取りはこの作品を引きたてるための必然からのデザインといいます。流れるBGMは弦楽器の胡弓。売店のアイスクリームはHaagen-Dazs。ちなみにオープニングイベントではフォルクスワーゲン試乗会を実施したそうです。直線を基調に配された廊下と丸い柔かな照明。朝食のコシヒカリを炊くための釜戸。女性のためのパウダールーム。貸切露天風呂とそれに続く手作りの竹の小道。露天風呂付客室。冬の荒天時などでも楽しめるようにと地階にはオーディオビジュアルルームも設置されています。また、温泉の効能を徹底的に追求した結果生れた「温泉おしり洗浄器」と「温泉美肌パック」は現在特許出願中とのことでした。
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ホテル秀山は団体客志向で営業しているので、こちらは徹底的に個人客をターゲットにしたい。旅館やホテルを良く知っていて、口コミやできればwebなどで積極的に情報発信するような人たちに来ていただきたい。できるだけ話題を持って帰っていただけるよう館内のあちこちにメッセージカードを置いたり、いろいろな仕掛けを用意している。
食のお箸は普通より少し良いものを使っているが、お帰りの際にプレゼントとして差上げている。着替えなどの持ち歩き用には、ありがちな巾着などでなく、ちょっとしゃれた風呂敷を用意している。思いがけなく、なにか貰ったりするのは嬉しいことと見えて喜んでいただいているようだ。お持ち帰りいただいて普段の生活の中でも使っていただけるような品をプレゼントしているのは、それを使った時、ふとここに泊ったことを想い出してもらえればありがたいと思ってのこと。
旅館業が居酒屋やレストランなどと最も違うところはサービスのシチュエーションの多様性と時間の長さだと思う。その場面場面に合わせて驚きと感動を提供できれば、他には真似のできない決定的な優位性に繋がると思う。
チェックインして部屋に入るとメッセージ付の花束が置いてある。食事コースの最後に同伴者からのプレゼントがサーブされる。個人的なお祝い花火を打ち上げる。さまざまにびっくりしてもらえるようなオプションを用意している。
ただ、こちらで企画したり思いつくようなサービスには限界がある。喜びのツボを知っているのは、やはりその方の家族や身内、仲間だと思う。そういう情報を教えていただいて、本当にパーソナルな、その人のためだけのサービスをベストなタイミングで提供できれば、泣出してしまうほど感動してくださるのではないかと思う。いつかそんなおもてなしを通じて、とっておきの宿と言われるようになりたいと荻野専務はこれからの想いを語って下さいました。