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商工連ニュースにいがた掲載記事

[まちの元気じるし]河政刃物:与板町商工会(商工連ニュース18年5月号掲載)

古くから三島郡の中心であった旧与板町は、1月1日に長岡市と合併しました。西部の三島丘陵と東部の信濃川に挟まれた中央部に市街地が発達し、城下町特有の鍵形の道路が南北を縦断しています。
今回は「越後与板打刃物」の伝統的技術・技法を伝えながら、現代に求められる顧客ニーズを探り、積極的な市場開拓活動を展開している『河政刃物」の河野稔さんを訪ね、お話を伺いました。

 河政刃物
  住所:新潟県長岡市与板町与板乙1616−15
  TEL:0258−72−2619
  FAX:0258−72−2711

型変り刃物

 通産大臣指定伝統的工芸品である越後与板刃物を製造する河政刃物、三代目の河野さんは昭和33年に家業に入り、弟さんとともに伝統の技術を守り続けています。先代の父が一般の大工道具から型変り刃物を作るようになり、他に先駆けたものづくりへの挑戦は今も続いています。
 新しい製品を世に出したいと、共柄(柄が金属製)の彫刻刀を試作してみたものの、商品として扱う問屋筋には重過ぎて使いにくそうと不評だったそうです。「最初は物珍しさで使ってくれた人たちが、その使い勝手の良さを広めて、今も続くロングセラー商品に育て上げてくれた。使う人の声を聞いて、はじめて良い道具ができる。」というお話を伺いました。

オーダーメイド

 職人の要望に応えて、ひとつひとつ手打ち仕上げによるオーダーメイドで製造しています。一般的にはセット物が売られていますが、職人の道具は使うものが決まっており、セットが無駄になってしまうことが多いそうです。人それぞれに使い方が違うため、要望により使いやすい形に仕上げていきます。現在は富山県井波の木彫職人を訪ね、いろいろな話を聞きながら営業を行なっていますが、今後は佐渡の竹細工や版画の道具としての営業も考えていると意気込みを語って下さいました。

店舗を開設

 5年ほど前に鍛冶屋さんとしては珍しく、独自の店舗を開設しました。街中にある店舗は毎週日曜日に店を開け、職人をはじめ色々な人が訪ねてくるそうです。店には今までに作った型変り刃物などが展示され、実物を見ながら道具の話ができるため具体的な要望も聞きやすいようです。イベントなどの際には版画や切絵などの教室を開催しています。楽しみながら彫刻道具に親しんでもらい、趣味の世界を広げるお手伝いとともに、与板刃物の普及とPRも兼ねています。職人だけでなく趣味で道具を使う人も顧客に取り込んでいこうとする姿勢が窺えます。いずれは刃物に関する道具(柄や刃研ぎなど)全てをそろえ、ワンストップで対応できる店舗にしたいという思いがあるそうです。また今までに作った刃物を、使い方とともに紹介するカレンダーの作成を考えています。

県外から弟子入り

 河政刃物にはご主人兄弟のほかに若い女性の鍛冶職人がいます。伝統工芸の本を見て与板刃物に興味を持ち、その技術を学ぼうと半ば押しかけるように弟子入りをしたといいます。そのいきさつはテレビや新聞などのメディアにも取上げられ与板刃物のPRに大いに役立ってくれたそうです。住み込みの修行から3年が経過し、河野さんは口では「まだ、まだ。」と言いますが、立派な戦力として期待している様子でした。将来は道具を受け継ぎ、どこでやるかはわからないが、河政刃物の技術を受け継いでもらえると思っているそうです。

伝統工芸を守る

「コンピュータ技術が進歩して機械で何でも作れるようになったが、人の手で作る良さは今でも変らない。伝統工芸を残していくためにも技術を大切にしながら、新しいものを作る努力もしなければならない。また柄を作る技術や刃研ぎの技術も伝承していって欲しいと思っている。それら全てが受け継がれていくことによって始めて与板刃物がひとつの製品として出来上がる。鍛冶職人の名人を目指すのではなく、ものを作る最高の道具として刃物を作り続けたい。」と話して下さいました。